さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
What should we do now? Explore the history of Japan and the world.
〜 PEKのひとりごと PEK’s soliloquy 〜
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xiii’’’’’’’’)番外編7 凋落する国際競争力(Ⅳ)システム思考
システム思考によるビジネスモデル
ビジネスで勝てるシステム思考の好例はインテルだという。PCマザーボードの設計仕様を公開し、台湾企業に大量生産させる。一方でCPUとマザーボードのインターフェース規格を押さえる。マザーボードが売れるほどインテルのCPUが売れるビジネスモデルを確立した。
他方、日本は新興国のメーカーを下請けに使うだけ。そのため、いずれ技術を奪われ、大量生産で世界市場を奪われてしまう。
「インテルは八〇年代に日本の半導体メーカーに叩きのめされ、生き残るためにこういうビジネスモデルを作り出した。日本の経営陣は、今、自分たちが同じ立場にあることを自覚すべきです」と前出の妹尾氏は述べている(脚注1)。
そもそも、企業活動の目的は、継続的に雇用を守り、税を納めることによって国家に貢献することである。そのための手段として企業は『利益』を獲得する。当然のことである。
湯之上氏は、かつてリストラの対象となって半導体業界を去り、社会学者として再出発した。氏は叫ぶように強調する(脚注6)。「どんなに高性能な製品を作り、それがどんなに高品質であっても、利益をもたらさないならば、なんの価値もない。
それどころか、このような過剰性能、過剰品質の製品を、過剰技術を用いて作っているがゆえに、巨額の赤字を計上し、リストラにより多数の社員をクビにするのだとしたら、そのような技術および製品は企業活動にとって『悪』としか言いようがない」と。
「病気の治療には、第一に、本人が病気であることを自覚する必要がある。『技術では負けていない』などと言っている間は、治る見込みがない。第二に、病気を自覚したならば、その病気を治そうという強い覚悟がいる。」
どんな援助があっても、協業や統合をしても、「本人たちに、病気を治そうという決意がなければ、病気は決して治らない。単に、延命処置をして、問題を先延ばししているに過ぎないからだ」と。
ある会議で、台湾および韓国の技術者が次のように述べたという(脚注6)。
「もう、日本の半導体メーカーは、まったく怖くない」
「ただし、やはり、日本半導体メーカーの技術は、素晴らしい」
「もし、日本半導体メーカーが、コストを含めた全体最適化をするようになったら、脅威だ」と。
彼らは「システム思考」の大切さを知っている。日本企業と技術者の弱点を知っているのである。また、日本の力も素直に認め、全体最適化をすることが可能となった時の脅威にも言及できる。日本人としては悔しいが、たいしたものである。日本人は謙虚になるべきだ。
「敗戦」を迎えた日本のエレクトにクス産業は、その事実を冷静かつ真摯に受けとめたほうが良いだろう。過去の成功体験を一切捨てて、技術とビジネスを融合させるシステムを作り上げるべきである。一からビジネスモデルを作り出し、産業構造を変革すべきときに来ている(脚注16)。
図4 システム思考の苦手な日本人?(脚注6より)
私のイノベーション
かつて、日本企業は欧米先進諸国に集中豪雨的な輸出攻勢をかけ、輸出先の国内産業を完膚なきまでに叩きのめした。日本製品(メードインジャパン)は世界を席巻した。現在、新興地域での日本製品の存在感は非常に薄い。無きに等しい。
昨今は、バブル崩壊後の「失われた十年」「就職氷河期」「ロストジェネレーション」「中流の下流化」「下流社会」「時代の閉塞感」「成熟社会の苦悩」「良くてゼロ成長の時代」など、さまざまなネガティブなキーワードで語られている。
それらのキーワードは、日本企業が生み出す工業製品の競争力が落ちていることと無縁ではあるまい。日本企業が凋落を迎えていることと無関係ではないだろう。
過去の成功体験を引きずって、負け始めても「為替のせい」「投資のタイミングをそこなっただけ」「ものつくりの技術では負けない」などと『言い訳』を並べていた。「利益をあげる」というビジネスの基本そのものを見失っていた。
過剰技術と過剰品質という病気を治そう、世界で再び競争力をつけられるように謙虚に取り組もう、新しい産業を起こし雇用を創出しようとする人々が多く輩出することを願っている。
国の政策が悪いからと批判したり、補助金などをあてにして泣きついたりせず、正々堂々と勝負できる日がまた来ると良い。新しい産業も起こして雇用も生み出し、是非とも景気を上向かせて人々の心も明るくしていってもらいたいものである。
企業活動や技術革新(イノベーション)などと直接は関係のない人も、簡単に諦めたり、自虐的になったり、批判的になったりせず、全体を俯瞰する力を身につけて上を目指そうとする姿勢を身につけることは、とても大切だと思う。
景気が悪いのは政府のせいだとは言えないのである。「大和魂」という精神論だけで戦って国を滅ぼしたことを思い出し、日本人全体が「ものつくり国家」の幻想から醒め、自分の足元と世界を見て立ち上がることが景気回復の処方箋でありカギだ。
日本人の長所ならびに短所をよくわきまえ、特に「システム思考」で全体を俯瞰し、私たちも与えられている持ち場で、さまざまな改良や改革(イノベーション)に取り組んでいきたいものだと思う。(了)
(本論「凋落する国際競争力」の文頭にもう一度戻る)(マイ・アーカイブズへ)
脚注
1)妹尾堅一郎著「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」ダイヤモンド社。妹尾氏は東京大学イノベーションマネージメントスクールの特任教授。図1は東京大学小川紘一教授の資料による。
6)湯之上隆著「日本『半導体』敗戦」光文社、2009年8月
16)「日の丸エレクトロニクス惨敗」衝撃の現実、SAPIO、小学館、2010年3月31日。
(2302文字)
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2010年5月2日日曜日