さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
What should we do now? Explore the history of Japan and the world.
〜 PEKのひとりごと PEK’s soliloquy 〜
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xiii’’’’’’’’)番外編7 凋落する国際競争力(Ⅰ)シェアでも技術でも
日本企業の国際競争力が落ちている。過去の成功体験を引きずっていて、新しい戦略が描けないでいる。教育も全くダメになっている。初等中等学校での学力は落ちる一方。目も当てられないおバカな大学生が目立つ。向上心がなく現状に満足している若者が増えている。
以前の自信に満ちていた頃の日本からは、とうてい信じられないほどである。日本はどうしちゃったのか?これからどうすれば良いのか?課題と将来への展望と私たちができることについて、何回かにわけて考えてみる。
凋落する日本企業の国際競争力
かつて世界を席巻した日本のエレクトロニクス製品が、台湾や韓国の製品に取って代わられている。
液晶薄型テレビ、プラズマ薄型テレビは、シャープやパナソニックなどが市場を育ててきた。だが世界シェアでみると、ソニーが三位に食い込んでいるだけ。世界中のほとんどの地域で、韓国のサムスンがトップシェアに君臨している。
北米市場では、台湾メーカーのビジオが低価格路線で躍進し、ソニーに次いで第三位につけているとのこと。今後は、世界市場でもビジオが急成長すると注目されている。
二〇〇九年の七〜九月期の営業利益の比較では、サムスンが三二六〇億円であるのに対して、日本のソニー、パナソニック、東芝など大手九社の合計が一五一九億円だという。サムスンの半分にも満たず、日本企業が束になってかかってもサムスン一社に敵わない。
衝撃である。いくらウォン安とはいえ、日本のエレクトロニクス企業の惨敗である。
日本発の新製品として有名な液晶パネル、DVDプレーヤー、カーナビ、日本が研究開発を先導してきたDRAMメモリ、太陽光発電セル、そのどれでも、日本メーカーの世界シェアは低下の一途をたどっているとのこと(図1、脚注1)。
図1 日本発の新製品と世界シェア
(図は脚注16より)
特に、日本発の液晶パネル、DVDプレーヤー、カーナビなどは、日本が市場を独占していた。しかし、市場が急拡大するにつれて、例外なく日本企業のシェアは急落し、一〇〜三〇%程度になってしまっている。
DVDプレーヤーは、日本企業が連合して国際標準化に尽力し、特許も押さえた。にもかかわらず、中国メーカーの激安製品の攻勢にさらされ、市場を奪われてしまった。
液晶パネルやDRAMは韓国メーカーに市場を奪取された。太陽光発電パネルは、シャープが四位、京セラが六位に落ち込んだ。
総務省は「日本の企業競争力が強い品目」として、DVDレコーダ(六六・三%)、コピー機(六五・五%)、デジタルカメラ(六〇・四%)を挙げている(脚注2)。
これだけを見ると、日本企業に競争力があるように見える。だが、「日本の輸出競争力が強い品目」となると状況は一変する。目立つのはデジタルカメラ(三六・四%)くらいで、あとは軒並み一〇%台。携帯電話に至っては〇・二%、デスクトップPCで〇・五%のみ。
国内市場が大きいためにシェアが高いだけで、国際市場における競争力は著しく弱いことが明らかだ。
日本製品が売れているのは日本だけという状況で、それをガラパゴス化と呼ぶそうである(脚注3)。かつて世界を席巻した日本のエレクトロニクス企業の成功物語はもはや過去のものである。
日本のエレクトロニクス産業は「敗戦」を迎えた。衝撃の真実である。
サムスンの成長と技術力
サムスンの成長理由は模倣である。いわゆる「カエル飛び戦略」がよく知られているのだそうで、最新の製造機器を日本から輸入し、分解して技術を解析するリバースエンジニアリングで技術差を詰めたといわれる。
日本から高額報酬で技術者を引き抜き、製造ノウハウも吸収している。そのため、最近はキャッチアップの速度が尋常ならず速くなっているとのこと(脚注4)。
基本が模倣であるため、サムスンは日本企業から訴訟を起こされている。台湾の産業技術研究院からも特許侵害で訴えられているという。
しかし最近は、モノマネではなく、技術でもサムスンは優位に立ち始めている。LEDテレビという、液晶のバックライトにLEDを使う薄型テレビは、まずソニーが二〇〇六年に開発した。
サムスンはその四年後にソニーと異なる方式で製品化し、一般の液晶テレビと同様の価格で発売。一気にシェアを奪い、サムスンのブランドイメージは日本メーカーを凌駕するようになったという。
二〇一〇年一月のコンシューマ・エレクトロニクス・ショー(CES:ラスベガス)において、サムスンは十機種以上の3Dテレビを展示。3D有機ELテレビの試作機も出品。日本企業の関係者は度肝を抜かれたそうである。
東大の妹尾堅一郎特任教授は次のように日本の現状を語る(脚注1)。
「もはや日本メーカーはビジネスだけでなく、技術でも負けている。その現実を認めて対策を立てなければ、手遅れになります」と。
半導体産業の凋落
半導体は「産業のコメ」と言われた。かつて、一九八〇年代半ば、日本半導体産業は世界市場で五割以上のシェアを得て、自動車産業と並ぶ日本の基幹産業となった。
しかし、「失われた十年」と言われた一九九〇年から二〇〇〇年にかけて、日本半導体産業は凋落した。特に、DRAMでは、NECと日立、三菱が設立した合弁会社一社(エルピーダメモリ)を残して皆撤退してしまった(脚注5)。
ところが、二〇〇九年六月三〇日、そのエルピーダメモリも、産業再生法の第一号認定を受け、公的資金三〇〇億円が注入されることが決まった。日本半導体産業は今や瀕死状態にある。国際競争力も市場も失い、自力では再生できないところまで追いつめられた。
日本半導体産業のピーク時に日立製作所に入社し、十数年現場で技術開発を担当した後に社会学者に転じて凋落の原因を追及してきた湯之上隆氏は、次のように述べる(脚注6)。
「日本半導体産業の凋落原因は、ひと言で言えば『過剰技術・過剰品質』(という病気)である。最高の技術で最高の製品を作っても、それを買う買い手がいなければ産業は成り立たない。ここに、日本半導体産業が陥った『イノベーションのジレンマ』がある。」(つづく)
脚注
1)妹尾堅一郎著「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」ダイヤモンド社。妹尾氏は東京大学イノベーションマネージメントスクールの特任教授。図1は東京大学小川紘一教授の資料による。
2)平成21年版ICT国際競争力指標の公表による。
3)宮崎智彦著「ガラパゴス化する日本の製造業」東洋経済新聞社、2008年9月。
4)産業能率大経営学部の岩井善浩教授による。
5)http://ja.wikipedia.org/wiki/エルピーダメモリ
6)湯之上隆著「日本『半導体』敗戦」光文社、2009年8月
(2720文字)
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2010年4月17日土曜日