さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
What should we do now? Explore the history of Japan and the world.
〜 PEKのひとりごと PEK’s soliloquy 〜
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xiii’’’’’’’)番外編6 強欲資本主義と日本(Ⅳ)日本のDNA
強欲資本主義からの脱却
前述のエコノミスト浜氏は、『ユニクロ栄えて国滅ぶ』という事態にならないように知恵を絞ることを提言している。強欲資本主義の別称でもある「自分さえ良ければ病」を克服するようにと警告し、次のように処方箋を提示する(脚注2)。
「この『自分さえ良ければ病』の弊害を、古来の経済人は実はよく知っていたのではないかと思う。たとえば、江戸期から繁栄を続けてきた近江商人は、『我が社よし、お客様よし、世間よし』という発想を持っていた。
自分も儲け、客も喜び、社会にも利する商売でなければ、永く続けていくことはできないという戒めである。
これは『自分さえ良ければ病』に対する見事な歯止めであり、予防策なのである。現在の格安競争には『世間よし』が欠けている。どこかで世間のためになる安さの限度を越えてしまっている」と。
図4 三方よしの原典(中村治兵衛岸宗次郎幼主書置)
(http://www.shigaplaza.or.jp/sanpou/ethos/source.html より)
ベンチャー企業だった京セラを世界企業に育てた稲盛和夫氏も同様のことを述べている。長いが引用しよう(脚注12)。
「日本経済は、過去概ね外需によって景気回復を果たしてきたが、今求められているのは内需拡大による景気回復である。
外需は昨年来の金融危機によって大きな打撃を受けたが、回復の兆しがある自動車や電気業界を中心に内需が拡大していけば、日本経済は自助努力によって立ち直る潜在力を持っていると私は信じている。
私がボランティアで長年取り組んできた『盛和塾』には、現在、全国の中小企業経営者が五千五百人以上塾生として参加している。多くの塾生は十人から百人くらいの従業員を抱える中小企業の経営者だが、私はその塾生たちの前で、常にこう話している。
『みなさんは、従業員とその家族の方々が安心して働けるよう立派な経営をされている。その経営が生み出す利益の半分近くが税金で納められ、日本の経済社会が支えられている。
中小企業の経営者はみんな金儲けのために経営をしていると、若干侮蔑的な目で見られることもあるかもしれないが、私は、みなさんのような立派な経営者がおられるから、日本の社会があるのだと思っている。
日本の富を稼いでいるのは、政治家でも学者でもない、まさに中小企業の経営者のみなさんだ。
みなさんが生み出した富の中から税金を払い社会が成り立っているのだから、すばらしいことをやっているという自身を持ち、“しがない中小企業ですが”と自分たちの仕事を卑下しないでいただきたい。
みなさんの経済活動は富だけでなく、周囲に良いことをもたらしている。そのためにも、利己的な思いで経営するのではなく、“利他の心”で経営してほしい。利他とは、周囲のみんなによかれと思うことをベースにすることだ。
それでは儲からないのではないかと心配するかもしれないが、そうではない。取引先や相手先が喜んでくれなければ、自分が儲けられるはずがないからだ』」と。
よくおわかりのように、盛和塾で語られる『利他の心』は、近江商人の『我が社よし、お客様よし、世間よし』と共通するところがある。
稲盛氏は続ける。氏は、北京大学等に招かれて「なぜ経営に哲学が必要か」という内容の講演をしたそうである。その時に、聴衆は次のような感想を述べたという。
「我々は今まで、アメリカの資本主義を学ぶために、特にハーバード・ビジネススクールの教材を使って中国の経済復興や経済発展に取り組んできた。しかし、それが全てではないことに気付いた。
これからは我々も、資本主義だけではなく、人間性を加味した経営を目指すべきだと実感した」と。
今後は、経済発展の中で市場原理主義という覇道をではなく、徳を重んじる王道の道を歩んでいこう。そういう人材が中国にもいることを稲盛氏は感じ取ったようである。そして、次のように講演をしめくくっている。
「ひるがえれば、大正時代に来日した中国の孫文は講演のなかで、
『日本は今、盛んに西洋の科学技術を導入し、軍事力を強化しているが、これは“覇道”だ。東洋にはそれより優れた、徳を重んじる“王道”の文化がある。日本の国民が今後、欧米の真似をして、覇道の道を進むのか、王道を歩むかは、みなさんが選択しなければならない』と語りかけた。
その後、覇道の道を選んだ日本は昭和の時代に先の大戦に突入し敗戦を迎えた。……中国でも、日本でも、“王道”にもとづく国家運営、経済活動を行なっていただきたいと、心より願っている」と。
この『王道』も、『利他の心』、『我が社よし、お客様よし、世間よし』に通じるものであろう。前出の神谷氏による『価値競争力』に、『王道』、『利他の心』、『世間よし』が結びついて初めて、強欲資本主義から脱却し打ち克ってゆくことができるものと思われる。
日本の可能性
日本はもうダメだ。これからは中国の時代だ。どんどん地盤沈下して国として活力が無くなって行く、という声がよく聴かれる。
しかし日本人は、国難ともいうべき十九世紀中葉の大変革期も、第二次世界大戦の敗戦も英知を振り絞って乗り越えて来た。私は、相当の困難が予想されるものの、現在の危機も同様に克服できるのではないかと想像している。
ただ条件がある。政府が悪い、時代が悪い、隣国が悪い、国際情勢が悪いと、他人のせいにする人を育てるのではなく、所属している組織の中にあって自力で現状を打破し技術革新を先取りできる人材を輩出することである。
パイの取り分を自分だけ多くすることだけしか考えていない強欲資本主義の手先ではなく、市場と顧客を創造する有能な人材と企業(組織)を育ててゆくこと。日本人にはそれが出来るのではないかと、私はいくぶん楽観している。
「我が社よし、お客さまよし、世間よし」「利他の心」
強欲資本主義が良いのか?それとも、江戸時代から脈々と受け継がれて来た日本の伝統ともいえる「DNA」を発展させるのが良いのか?
答えは明らかだろう。(了)
(本論「強欲資本主義と日本」の冒頭に戻る)(マイ・アーカイブズへ)
脚注
2)浜 矩子「ユニクロ栄えて国滅ぶ」安売り競争は社会を壊す恐るべき罠だ、文藝春秋、10月、2009年
12)稲盛和夫「鳩山民主よ勝って兜の緒を締めよ」文藝春秋、10月、2009年
(2487文字)
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2010年4月5日月曜日