さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
What should we do now? Explore the history of Japan and the world.
〜 PEKのひとりごと PEK’s soliloquy 〜
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xiii’’’’’’’’)番外編7 凋落する国際競争力(Ⅱ)過剰技術・過剰品質
過剰技術、過剰品質という病気
湯之上氏の著書には、日本半導体企業から韓国または台湾系企業に転職した技術者へのインタビューを基にした分析が載っている(脚注6)。
表1 日本と韓国及び台湾などとの比較
日本 韓国、台湾など
最優先事項 高品質、極限技術 歩留まり、コスト
要素技術 技術開発力は高い 既存技術を延命する
極限性能を追求する 技術開発には興味がない?
オーバースペック気味 装置メーカー任せ
インテグレー 高性能実現のため、 歩留まり向上のために
ション技術 あらゆる工夫を盛り込む インテグレーションする
その結果工程数が多い マスク枚数、工程数を減らす
生産技術 歩留まりよりも高品質優先 歩留まり向上を徹底する
高級な装置を並べる 既存装置を使いこなす
装置のスループットが悪い 装置稼働率、スループット
向上を目指す
それをまとめると、日本は高品質で高性能な半導体デバイスを作る技術には優れているものの、安く作るための技術力が韓国や台湾よりも劣っている。過剰技術で過剰性能、過剰品質の半導体デバイスを製造している。その結果、製造コストが高騰するというわけである(図2、脚注6より)。
氏は述べる(脚注6)。「どうやら、日本は、ものづくりの基本を逸脱しているように思われる。要するに、日本半導体産業は、過剰技術で過剰性能、過剰品質を作る病気に冒されている。しかし、日本の業界自体は、自分たちが病気だとは思っていないのだ。
病気に冒されているのに、病気だとは思っていないこと。日本半導体産業の最大の問題点は、ここにあるといっても過言ではない」と。
技術の的を外しつづけた日本企業
当初、日本半導体企業トップや技術者たちは言い訳をした。「経営、戦略、コスト競争力で負けた」「だが、技術では負けていなかった」と。
しかし、LSIを発明したテキサスインスツルメントなど米国企業を、高い技術と高い品質によって叩きのめした成功体験は、逆に日本メーカーを窮地に追い込む。やがて、過剰技術と過剰品質はマイナスの作用を及ぼす。日本半導体企業は、技術の的を外し続けた。
コスト競争力は技術とは関係がないという認識、それ自体が誤っていた。「技術」=「コスト」と考えるべきだった。すなわち、どのような技術を選択したかによってコストは自ずと決まってしまったのだ。
湯之上氏は、二〇〇四年十月に上記のような内容の講演を行った。その内容に対する日本半導体業界関係者の反応は「衝撃的というより、笑劇的であった」という(脚注6)。
次の講師の、ある大手半導体メーカー常務は持ち時間の半分以上を割いて、湯之上氏の講演内容を批判したほどだった。「日本半導体の技術力は極めて高い。日本は本物の技術力を持っているのだ。湯之上の言ったことは間違っている」と。
やり取りを見ていた自動車部品メーカーの人から、次のようなことを言われたという。
「日本半導体って、ゴーンが来る前の日産自動車みたいだね。日産自動車は、技術オタクの会社で、過剰技術、過剰品質のせいで、一九九〇年末に倒産しそうになったんだ。
うちの会社は、日産のブレーキを作っていたのだけれど、たかが足で踏むブレーキパッドに、なんでこんな精度の高い加工を要求するんだろう?なんでこんな高級な表面処理をさせるんだろう?と思っていた。
……たぶん、日産は、すべての部品が、そういう過剰品質だったんじゃないかな?だから作れば作るほど赤字になり倒産しかけたんだよ。ゴーンが来てなにをやったかって?簡単なことだよ。原価管理部を作ったのさ。
……どの技術を使うか、部品の品質はどうするかを、すべて原価管理部が決めるのさ。最初は、技術者とけんかになったみたいだよ。なぜ、オレたちの開発したこの素晴らしい技術を使わないのか、とね。
でも、技術オタクの技術者と、ゴーンのどちらが正しかったかといえば、その後のV字回復を見れば、一目瞭然だろう(引用者脚注7)。日本半導体の最大の問題は、ゴーンがいないことじゃないのか?」と。
湯之上氏の説は、業界関係者ばかりでなく社会科学者たちからもさんざん叩かれたそうである。しかし、氏はめげずに発表し続けた。すると、一年後の二〇〇五年秋に転機が訪れ、「日経マイクロデバイス」に載った論文(脚注8)が反響を呼び、その後、毎年三〇回以上の講演を行うようになったという。
どうしたら良いのだろう?次回、過剰技術による過剰品質という病の本質とそれに対する処方箋について考えてみる。(つづく)
脚注
6)湯之上隆著「日本『半導体』敗戦」光文社、2009年8月
7)http://ja.wikipedia.org/wiki/日産自動車
8)湯之上隆著「技術力から見た日本半導体産業の国際競争力——日本は技術の的を外している——」『日経マイクロデバイス』、2005年10月。
(2116文字)
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2010年4月18日日曜日