さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
What should we do now? Explore the history of Japan and the world.
〜 PEKのひとりごと PEK’s soliloquy 〜
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xiii’’’’’’’’)番外編7 凋落する国際競争力(Ⅲ)抜けきらない大和魂
国際競争力が落ちているという事実は、過剰技術と過剰品質という「病気」に由来する。日本人特有の弱点らしい。今回は、その第二回目である。
ものつくりの誇りは大和魂と同じ?
日本の半導体業界で技術者として働いていた経歴を持つ、社会科学者の湯之上隆氏は言う(脚注6)。
「日本は『ものづくり国家』と言われ、それを誇りにして、現在の経済的苦境を乗り越えようとする動きがあるが、この病気(引用者注:過剰技術と過剰品質)を治さない限り、日本半導体産業は立ち直らない。これは、なにも半導体産業だけの問題に限らず、日本の産業すべてに言えることではないだろうか?」
日本製品が売れているのは日本だけという「ガラパゴス化」が問題視されるようになっている(脚注3)。日本だけに通用するハイエンドな製品を作る日本の企業。世界市場で競争力を失った日本製品。
半導体産業だけではない。日本のエレクトロニクス産業も「敗戦」を認めるべきだというわけである。
工業製品の製造には、インテグラル型(すり合わせ型)とモジュール型(組み立て型)があるらしい。インテグラル型の典型が自動車で、モジュール型の代表がパソコンであるという。
インテグラル型は、高付加価値、高性能な製品をすることを可能にし、伝統的に日本人の得意分野である、とされてきた。「ものつくり」による高度成長を支えて来た製造方式だった。
東大名誉教授の木村英紀氏は、「もうそんな時代は終わった」と次のように述べる(脚注9)。
「日本人は好んで『ものつくり』という言葉を使いますが、戦時中の『大和魂』と同じ使われ方をしているように感じる。大和魂は日清・日露戦争の勝利という成功体験から生まれた言葉で、これさえあれば戦争に勝てると突き進んで破局を招いた。それと同じです」と。
図3 大和魂の象徴?
(写真は http://harunazy.hp.infoseek.co.jp/zeropht/zero11.htm より)
日本メーカーは技術で勝てばビジネスにも勝てると信じ、ただ製品を作って売るだけだった。技術だけではなくビジネスで勝つことを真剣に考えては来なかった。
では、技術力で勝る日本がなぜ全世界のビジネスで負けるのか?それは「ものつくり神話」に囚われ、「システム思考」を失ったからだという。
再生への処方箋
日本のクルマ産業は今のところ世界最強である。半導体はクルマ同様、高度な「すり合わせ(インテグラル)」型産業であるという。では、なぜ、日本人が強みを発揮するはずの「すり合わせ」型なのに、日本半導体産業は最強ではなくなったのか?
湯之上氏は次のように述べる(脚注6)。
「それは、組織が『擦り合わせ』に最適な構造になっていないからだ。先鋭化してしまって自分の専門領域しか見えていない要素技術者、性能しか頭にないインテグレーション技術者、デバイスコストなど考えたこともない設計者、マネジメント能力のないマネージャー、経営能力のない経営者。
要するに、製造技術は『擦り合わせ』が必要であるにもかかわらず、組織はモジュール化してしまっている。加えて、最適な人材がマネージャーや経営者になっていない」と。
どうしたらいいのか?氏は続ける(脚注6)。
「すべての技術者が、全体を俯瞰した上で、自身の専門分野を最適化できるようにすべきである。……優秀な技術者をむやみに管理職にしない工夫が必要だ。……設計者、インテグレーション技術者は、一度は、マーケティングおよび営業を経験するべきである。……マネージャーおよび経営者は、最低でもビジネススクールでMBAまたはMOT(引用者脚注10、11)を学ぶべきだ。
……経営能力のある経営者、マネジメント能力のあるマネージャーが、世界の動向を俯瞰してデシジョンする。設計者およびインテグレーション技術者が、市場を俯瞰して、設計し、工程フローを構築する。要素技術者は、半導体デバイス全体を俯瞰して、専門の要素技術を開発する。」
これが「システム思考」である。要するに、当たり前のことを行なえば良いだけである。そのように聞こえてくる。その当然のことが出来ない。「システム思考」ができない。
過去の歴史においてもそうだし、現代政治でもそうだが、日本という国では、全体を俯瞰して意思決定をするということができない(脚注12、13)。「システム思考」が苦手である。何故いつもこうなのだろう。ワを重んじるせいなのか、全体を俯瞰できない現場の声を尊重しすぎる傾向があるのか、リーダーシップがないのか(脚注14、15)。(つづく)
脚注
3)宮崎智彦著「ガラパゴス化する日本の製造業」東洋経済新聞社、2008年9月。
6)湯之上隆著「日本『半導体』敗戦」光文社、2009年8月
9)木村英紀著「ものつくり敗戦」日経プレミアシリーズ、日本経済新聞社、2009年3月。
10)MBA:Master of Buisiness Administration、http://ja.wikipedia.org/wiki/経営学修士
11)MOT:Management of Technology、技術版MBA、http://ja.wikipedia.org/wiki/技術経営
14)http://web.me.com/pekpekpek/さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策/Blog/エントリー/2009/6/7_ⅸ)_絶対視されるワ(2).html
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2010年4月24日土曜日