さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
What should we do now? Explore the history of Japan and the world.
〜 PEKのひとりごと PEK’s soliloquy 〜
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xiii’’’’’’)番外編5 二度と負けない外交(Ⅲ)大転換のシナリオ
大転換のシナリオ
一見して、中国にどのようにあい対するか、ほとんど書かれていない。そこが曖昧で、疑問が幾つも出てくる。しかし、そういった疑問はいったん傍らに置くとして、寺島氏の結論と言える部分を引用しよう(脚注12)。
「さて、こうした外交の一大転換を民主党外交は担えるかどうか。それは民主党が内政も外政も一体となったあるべき日本の構想を描けるかどうかにかかっていると考えています。
これまで日本外交は、一貫して自民党と外務省、ワシントンの一部の関係者の蜜月に全てを委ねていたからこそ停滞していたのです。
それを突き破るためにも、『民主党政権』となれば、政治主導で国家戦略を総合的に研究するような自前の組織を持つべきかもしれません。もちろんこれを実行することは困難であることが分かっています。しかし、大転換の構想を持たなければ立ち行かないところまで日本外交は岐路に立たされているのです。
過去の日本外交のように、御用聞きよろしく性急にアメリカに握手をしに行くのではなく、『日本が実現したいこと』をきちんと詰めてから相手側に問いかける戦略が必要になってくるでしょう。じつはアメリカも本音では、日米を『大人の関係』にする上で、それを望んでいるのです。
大人になれないままの子どもの国が、いかにして冷戦構造から抜け出してゆくか。それは我々自身がひきずってきた古き冷戦型の思考を捨て去り、大転換のシナリオ(構成力)を打ち出せるかにかかっています」
さてどうだろう。日本の安全保障、経済の発展、国益のために、このままで良いのだろうか。確かに、そう考えてきた国民も多かったように思う。子どもの国が大人になる。日本外交が自立する。それを望まない人は稀かもしれない。
これまで、右顧左眄、米国や中国、国内の左右意見に配慮し、微妙なバランスをとりながら、受け身の御用聞き外交を続けてきた子どもの国が、大人になろうとする。本当になれるかという心配はあるが、政権交代により、まさに大きく舵が切られたようである。
想起される疑問点
外交政策の転換により起ってきた当然の心配には、次のようなものがある。
1)価値観を共有していない中国との東アジア共同体構築で、基本的な価値観を共有している米国との同盟関係をどのようなものとしていくのか?
2)民主化されていない中国をそのまま受け入れるのか?戦後、中国国内では、毛沢東の中国共産党により七千万人以上もの人々が殺されたと言われている(脚注13)。今も、チベットや新疆・ウィグル自治区での弾圧が続いている。そういった人権問題を不問に付すのか?
3)先日北京で行われた建国六十周年の軍事パレードに見るように、何十年か前の共産主義国家よろしく、沢山の武器で諸外国を威嚇する、時代錯誤的で非常に異質な国を、そのまま受け入れるのか?それらの武器が日本にも向けられていることに対して、どのように対処しようとするのか?年率十%以上の伸びを示している中国の軍事力の問題をどのように扱うのか?世界にとって、特に周辺諸国にとって脅威ではないのか(参考図3)?
4)尖閣列島の領有権問題、排他的経済水域の国際的取り決め無視という領土問題、東シナ海のガス田開発という資源問題で火種が残っている国と、いったいどのように付き合って行くのか?外交カードを最初からたくさん切ってしまった新政権は、相手から与し易いと侮られるのではないだろうか?
5)台湾の武力統一を公言している中国は、現在建造中のものも含め空母を沢山作り、将来は太平洋の西半分を自分の支配権の及ぶ領海のごとく振舞おうとするだろう。台湾をめぐって、米中が武力衝突するリスクだってあり得る。それらに対して、日本は一体どう対応しようというのか?
6)江沢民以来進められてきた、反日を国是とする国づくり、教育の問題、歪んだ中国の歴史教科書の問題に対して、どのように対応するのか?日本からのODAに全く感謝もせず、国民にも知らせず、軍事費や反日施設建設にあて、ひたすら日本を悪者に仕立てる中国の対日政策を目の前にして、どうやって日本の国益を守るというのか?
7)中国の国益からすると、日本と米国との間に楔を打つとともに、日本を悪者に仕立て続け、国連の敵国条項をいつまでも残し、常任理事国には決してせずに戦後の大枠を変えないという外交政策に出る可能性が高いだろう。それにどう対応するのか?
8)したたかな中国外交と米国のはざまで、他の国々の人々を善意のカタマリと見なす日本が翻弄されるのではないか?子どもでお人好しの日本外交では、我が国は奈落の底に深く深く沈んでしまうのではないか?
これらは、総じて次の二つに集約できる。
米国との「大人の関係」を言うのなら、中国やアジア近隣諸国との関係でも同様に、「大人の関係」を作る気が本当にあるのか?
米国との同盟関係を崩してしまうリクスと、中国の軍事的脅威に圧倒されるリスクの両方を回避しつつ、大転換のシナリオを打ち出せるか?
一部の新聞および関連する出版物に沢山載っている、上述した彼らの言い分には、世界の国々のしたたかさ、たくましさ、腹黒さと、外交の舵取りの難しさという現実に目を向けるべきだという点で、一理あるという印象だ。
はたして、日本はこうした困難な外交の舵取りを主体的にやって行けるのか?大きな冒険は既にスタートしてしまった。非常に「心配だ」という本音が聞こえてくる。(つづく)
脚注
12)寺島実郎「米中二極化『日本外交』のとるべき道」文藝春秋、10月、2009年
13)石 平「中国大虐殺史—なぜ中国人は人殺しが好きなのか」2007年、ビジネス社
(2313文字)
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2009年10月19日月曜日