さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
What should we do now? Explore the history of Japan and the world.
〜 PEKのひとりごと PEK’s soliloquy 〜
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xiii’’’’’’)番外編5 二度と負けない外交(Ⅱ)米中二極化と日本
新政権での舵取り
米国のゴールドマンサックスという会社が、二〇〇三年に新興国BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の台頭をもとに、二〇五〇年までのGDPランキング予想を発表した(図2)。二十一世紀半ばには、中国、米国、インドの順になるというのである。
また、国際政治も、まずは米中二極化を迎えることがさかんに言われている。
民主党のブレーンの一人である寺島実郎氏は、新政権での外交の舵取りを、「米中二極化『日本外交』のとるべき道」と題して、次のように解説している(脚注12)。
(1)アメリカとの関係を大人の関係にすること
(2)アメリカをアジアから孤立させないこと
(3)中国を国際社会の一員として責任ある関与者として抱き入れること
中身を見ると、新政権がこれまでに打ち出している外交政策との一致点が見えてくるように思える。長いが、ほぼ全文を引用しよう。
外交原則その一『アメリカとの関係を大人の関係にすること』
「私は日本の外交原則を改めて明確にすべきと考えています。まずは対米についての二つの原則について論じておきましょう。一つはアメリカとの関係を『大人の関係』にすること。もう一つは『アメリカをアジアから孤立させない』ということです。
この原則はまさしく、日米安保同盟のあり方を根本的に見直すことに他なりません。
他国の軍隊が敗戦国に一時的に駐留することは珍しいことではありませんが、戦後六十年以上も在日米軍を抱える日本の現状は歴史的にみて、異常といえます。冷戦後ドイツは在独米軍基地の縮小と地位協定改定を実行しています。
『独立国に外国の軍隊が駐留し続けていることは不自然だ』という常識を日本は一刻も早く取り戻すべきなのです。ましてや、日本は米軍駐留コストの七割を負担している。こんな例は世界にない。
こうした現実に対して新しい議論が興らないのは、日米関係を議論するパートナーがワシントンにおける知日派、親日派と日本における知米派、親米派の一群だけで成り立っているからです。
日米互いに固定化した者同士のエール交換だけで済まされてきた。いわゆる日米の『安保マフィア』の間からは、新時代に適した戦略的な議論は生まれません。
たとえばインド洋での自衛隊の給油についても、”知日派”は『あれこそ日米同盟の信頼の証だ、期待している』と答えてくれるのですが、真の米国の世界戦略を考えている当事者の見方は全く違う。『日本は一体どんな優先順位でインド洋に派遣しているのか分からない』ととまどいの答えが返ってくるからです。
こんな現状に甘んじている日本が、果たして国際社会の中で自立した『大人の国』という認めてもらえるのでしょうか。
よく国際会議で海外の専門家から『日本は敗戦の中から復興した素晴らしい国だ』とお追従も言われますが、そういった発言の奥底には『しょせん日本はアメリカの周辺国だ』という認識が透けて見えます。日本は自らが置かれた立場をいま一度見つめなおし、自問自答すべきなのです。
これはかつての革新勢力の『反米・反安保・反基地』という議論ではありません。北朝鮮の核武装化、金正日体制の不安定化を前にした今、日米の軍事同盟それ自体は大切にすべきです。その上で『東アジアに軍事的空白を作らない形での米軍基地の段階的縮小と地位協定の改定』を目指すのです。
何よりも優先して実行すべきは『前方展開兵力』の必要性を原点から問い直すことです。前方展開兵力とは、アメリカが海外の前線に駐留させている兵力のことですが、東アジアにおいて沖縄や朝鮮半島にアメリカ軍が軍事基地をもっているのは、北朝鮮の南進に対して瞬時に対応するためだ、というもっともな理由があがるでしょう。
しかし、軍事技術は冷戦の時代から比べて遥かに発達しています。戦略情報戦争と呼ばれるほどの時代に、兵力そのものを前線に配置する意味は変化しているのです。
とはいえ、アメリカは前方展開兵力の見直し、基地縮小によって『沖縄・朝鮮半島』から『ハワイ・グアム』の線まで軍事基地を引き揚げることに対してまずは反対するでしょう。軍の本能として縮軍を拒否する心理がはたらくでしょうし、駐留経費の七割が負担軽減されていた基地をみすみす畳むなど不利益極まりないことだからです。
東アジアの安全保障を確保しつつ米軍との間合いを取り、かつ米軍が経済的にも納得する形で事態を解決する、この難しい連立方程式に答えはあるのでしょうか。
ポイントは『オーバー・ザ・ホライズン・ポリシー』、緊急派遣軍構想です。これは文字通り『地平線の彼方』に控えてはいるが、有事の際には派遣軍を出すという安全保障の方式で、アメリカが実際、中東に対して行なってきた方式でもあります。
例えばこの方式を日本がアメリカに対して提案し、ハワイ・グアムに置く東アジア安定のための緊急派遣軍維持のためのコストを日本が応分負担することにすれば、アメリカも納得してくれるのではないでしょうか。
縮軍で失うダメージや日本が負担していた駐留軍費という経済的メリットも損なわず、かつハワイ・グアムへ基地が引き下がっても東アジアの安全は一定の範囲で保障されるというわけです。
もちろん日米韓提携構想にすることも可能でしょうし、コストの応分負担を専守防衛型の軍事技術の共同開発費にも向けるという可能性も検討に値するでしょう。
反米でも嫌米でもないかたちで、冷戦の枠組みをどう脱却していくか。そして、駐留米軍を削減して、日本の主権を回復する。アメリカと『大人の関係』をどう構築していけるかーーーここが知恵の出しどころです。日本外交、ひいては日本の国のあり方を見据えた構想力にかかっているのです」
外交原則その二『アメリカをアジアから孤立させないこと』
「もう一つの対米原則論として唱えたいものは、『アメリカをアジアから孤立させない』ということです。
そのために必要なキーワードは『親米入亜』です。つまりアメリカがアジアから孤立しないように配慮しながら、モンロー主義(米国と欧州の相互不干渉の提唱)的DNAを潜在させるアメリカがアジアに建設的に関与するよう働きかけることが重要になってくるのです。
逆に言えば、これは日本がアジアから信頼を確立していなければ実現できない理念です。今こそ日本はアジアと米国をつなぐ『ブリッジ』としての役割を発揮できる段階に来ているのです。
ちょうどイギリスがアメリカの主張や利害を大陸欧州諸国につなぐ役割を担っていますが、日本もこうした役割を米中関係において担うべきなのです」
外交原則その三『中国を国際社会の一員として責任ある関与者として抱き入れること』
「もう一つの『外交原則』に挙げたいものは、中国を国際社会の一員として責任ある関与者として抱き入れるということです。
私の『原則論』はアメリカへの過剰期待と過剰依存の路線から脱却し、自立した日本を目指せ、ということに集約されます。そのためには、かつての超大国『アメリカ』と、中華思想の本家・中国に挟まれて極めて難しいハンドリングをしながら、米中の力学に振り回されない日本を実現すべきだということです。
この日米中の三ヶ国関係において、トライアングルを正三角形により近づけるような『対米』『対中』外交戦略を、日本は目指すべきなのです。」(つづく)
脚注
12)寺島実郎「米中二極化『日本外交』のとるべき道」文藝春秋、10月、2009年
(2885文字)
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2009年10月18日日曜日