さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
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千字でたどる日本の教会史 23)曲直瀬道三の入信
千字でたどる日本の教会史
23)名医曲直瀬道三の入信
当時、曲直瀬道三(まなせどうさん)という都一番の医師がいた。漢学と仏教各派の知識に通じた学者で、類まれな雄弁家だった。諸侯たちにとっても、彼と話すことは無上の喜びだった。豊後府内の学院長ベルショール・デ・フィゲイレドが重病になり、道三の噂を聞いて上洛。診察後、老人同士の気安さから話に花が咲いた。伴天連が独身と知った道三は「私もまた身体の健康のために…十八年前から(妻と)貞潔な関係を保って過している」と言った。
フィゲイレドと道三に以下の会話が交わされる。
「人々は…わずかしか保つことができない肉体の健康のために、莫大な金を注ぎ、それを保持するのに苦労する」それならば「永遠に滅びることがない霊魂の健康を保つために、より以上の注意を払い、力を注ぐべきはしごく当然のことであろう」
「はたして人間に残るような生命があろうか」
霊魂は不滅であり、人は偉大なデウスの助けなしに満足な一生を送ることができない、と説明すると、道三は笑いながら答えた。
「この年齢(とし)になって…何が悲しくて新たな考察などに耽る必要がござろう」
「御身にとり、今ほどそれが大切な時はない。御身は人生の終わりに達しておられるからだ」
「仰せのとおりであるならば、説教を最後まで聞きたいものだ…私が貴殿をてこずらせるようなことはあるまい。…ひとたび理解した上は…巌や鉄のように強くなるであろう」
彼は教会へ行き三度説教を聞いた。デウスが天にまします我らの父と呼ばれ、人はみな等しくその子供であるとの話は、それまで耳にしたことがなかった。不思議な感動と新鮮な喜びが道三の心を満たした。彼の理解は深まる一方で、キリストの受肉、受難、復活、昇天の知識も正確になった。「異教徒たちは傲慢であるから…受難の教義を嘲るに違いない。だが私はそれがはなはだ深遠かつ重大な教えであり、デウスのいと高き御計らいであると確信している」と述べるほど。
道三は洗礼を受ける。都では彼の改宗の話でもちきりとなった。人々は言った。「仏僧や日本の学者たちは、関白の改宗については、関白は馬鹿だからキリシタンになったのだ、と言うかもしれないが、道三に関しては、彼は学者だから、道理の光と力によって改宗したのだ告白せざるを得ぬ」
フィゲイレドは歴史上有名な宣教師ではない。しかし、患者としてかかった名医に対し、彼は逆に魂の医者としての役割を果たす。曲直瀬道三がニコデモのように見える。素晴らしいエピソードだ。
(1000文字)
画像は、曲直瀬道三。
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2012年4月1日日曜日