さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
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千字でたどる日本の教会史 14)信長による教会庇護
千字でたどる日本の教会史
14)信長による教会庇護
信長はイエズス会宣教師と会った。一五六九年、衆人環視の二条城建築現場で。信長は質問した。「そんなに遠い国から来たのはどういう動機か」「ただそれだけのために、これほど長い道のりを航海し、はなはだ大きな考えるだけでも恐ろしい色々な危険を自ら進んで引き受けたのか」。そのとおりだ、というフロイスの答えにひどく喜んだ。そして、群衆に紛れている僧侶たちに向けて大声で言った。「あそこにいる欺瞞者どもは、汝ら伴天連たちのごとき者ではない。彼らは民衆を欺き…虚言を好み、傲慢で僭越のほどはなはだしい…予はすでに幾度も彼らすべて殺害…しようと思っていたが、人民に動揺を与えぬため…彼らを放任しているのである」
仏教は政治の中枢に食い込んでいた。既得権益を守るため、キリスト教は日本を滅ぼす忌わしい宗教だと主張し排斥していた。信長は天下を真に掌握するために、この勢力を何とかしようと思っていた。新しい教えの到来によって、既存勢力の専制的支配がつき崩されることを願っていたのだ。信長と家臣三百人の前で、天台宗の日乗上人と宣教師たちによる宗教論争が行われる。宣教師側の圧勝だった。敵わぬと知った日乗は激高してロレンソを斬ろうと刀を取った。その醜態が都で噂になり日乗は面目を失う。僧侶の中には贅沢や色欲に溺れる者も多かったが、それとは違う宣教師の姿と行ないを人々は見た。その中で福音が拡がっていく。
裏切りが当然という下克上の世にあって、キリシタン武将は決して主君を裏切らなかった。勇猛果敢で死を恐れず強かった。信長は、荒木村重謀叛の時に立派な振る舞いをした高山右近らキリシタン大名を厚遇した。また、信長は論議を好み宣教師らの知性を愛した。安土でも多数の武将の前で、オルガンティーノやロレンソと三時間以上も話した。欧州から日本に来た道を地球儀上で示せとオルガンティーノに言った。オルガンティーノが海路を示す。こんな遠い道を来るのだから「汝らはなんら善事をしない盗賊か、あるいは反対に汝らの説教にはなにか偉大なものがあるに相違ない」と信長は笑いながら言った。日本人の魂を悪魔から奪い、天主である創造主に返す盗賊だとロレンソは答えた。ただ、信長はフロイスに向かって「予はおまえたちの神を信じない。日本の神も仏もだ」と言ったという。信長のキリスト教保護は、ひとえに政治的な目的のためだった。しかし、その庇護のもと教会は急成長を遂げる。
(1000文字)
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2012年1月22日日曜日