さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
〜 PEK’s à la carte & BookShelf 〜
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xii) ザ・コールデスト・ウィンター 朝鮮戦争 上・下
xii)ザ・コールデスト・ウィンター 朝鮮戦争 上・下
デイビッド・ハルバースタム著、山田耕介・山田侑平訳、文藝春秋 二〇〇九年十月
米国にとって太平洋戦争は栄光の戦いだった。しかし朝鮮戦争はどうか?帰還兵は多くを語らず誰も注意を払わないという。この戦いの意義を、米国は未だ見出せないでいる。本書は、骨太な現代史テーマに次々と取組んだ偉大な米国人ジャーナリストによる最後の作品。
スターリン、金日成、毛沢東、トルーマンの思惑と誤算が重なり、一九五〇年六月、北朝鮮は三八度線を突破し南に侵攻。東京のマッカーサーと取巻き連中は現実を直視せず、味方を苦境に陥れる。その後の仁川上陸、半島分断作戦は成功した。しかし敵軍を挟撃する機会を逸する。米韓は北へ軍を進めた。中朝国境の鴨緑江に敵を追い落とし、戦争はクリスマスまでに終わるはずだった。だが毛沢東は大軍を朝鮮半島に潜入させる。国連軍は中国軍の全面的な反攻に遭遇しズルズル後退。現地指揮官リッジウェイが全軍を立て直し盛り返す。マッカーサーは中国との全面戦争を主張しワシントン批判を展開。やがて解任される。そのあと消耗戦が繰返され、一九五三年七月に休戦協定が結ばれる。米国人犠牲者と行方不明者は計四万四千人以上。
一枚の衛星写真がある。まばゆい光に輝く南と漆黒の北。帰還兵は自分に言い聞かせる。このために俺たちと死んだ戦友は戦ったんだ、と。米国は多数の犠牲者を出して韓国を救った。確かに、隣国が今の自由と繁栄を享受できるのは米国の犠牲による。ここで疑問が浮かぶ。隣国には何故、恩を受けた米国に反発する人が多いのだろう?逆に納得する。米国にすら感謝しないなら、ましてや日本が隣国の独立や近代化に果たした犠牲と役割を評価する人は皆無だろう、と。
著者は政治指導者達の思いを考察し、現場指揮官らの葛藤や努力を巧みに描く。朝鮮戦争の全貌を巨視的に書いて成功している。しかし残念ながら、「過酷な植民支配、残虐、圧政」の如きお決まりの日本批判を、何ら検証なく繰返している。また、歴史をもっとマクロに見ることにも失敗している。日本は極東でずっと、共産主義に対する防波堤と近代化推進力の役割を果たした。その重要性を理解せず米国は日本を叩き潰した。ソ連参戦の何ヶ月も前に戦争を終結できたのに、原爆を使いたいためだけに引き延ばした。その結果パワーバランスは完全に崩れ、中国赤化と北朝鮮暴走を許してしまう。米国は朝鮮戦争で手痛いツケを払った。下巻の帯に「すべては歴史の前にひれふす」とある。もちろん私もひれ伏す一人となる。
(1000文字)
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2011年9月4日日曜日