さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
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x)文明の衝突と21世紀の日本
x)文明の衝突と21世紀の日本
サミュエル・ハンチントン著、鈴木主税訳、集英社新書 二〇〇〇年一月
二十一世紀、地球規模の一体化は進まない。世界は他文明化し、対立、衝突する。米国の一極支配は終焉し一極・多極体制となる。一九九三年の「文明の衝突」は衝撃だった。本書では「二十一世紀日本の選択」という論文が加わり、豊富なCG図版、概念図で「ハンチントン理論」本質が概説される。
世界は、西欧、東方正教会、中華、日本、イスラム、ヒンドゥー、ラテンアメリカ、アフリカの八文明に分かれる。競争的共存関係となり時に激しく対立する。特に、中華文明の台頭とイスラムの復興は、紛争の主な源となり政治的不安定をもたらす。唯一の超大国は一極体制を好む。自国を慈悲深い親切な支配者と考え、米国の原則、習慣、制度の普遍性と正当性を主張。他国にも押し付けるため世界の中で孤立する。今後は、超大国と地域大国とのあいだ、地域大国と地域ナンバー・ツーの国とのあいだ、隣接する地域大国どうしの関係がより対立的になる。
日本の特徴も語る。1)日本は文明としての孤立国家。2)西欧化しなかった日本と米国には文化的差異が存在する。今後も、欧米間のような打ち解けた思いやりある親しい関係とはなりにくい。3)西欧文明と中華文明の分裂線上で日本は揺れるだろう。日本外交は、日英同盟、三国同盟、日米同盟と、常に勢力ある大国に追随してきた(バンドワゴニング)。米国が超大国の地位を失うなら日本は中国と結ぶ可能性が高い、と。
著者の予見は日本外交の参考とすべきだ。しかし異論もある。a)超大国、地域大国、ナンバー・ツーの国、その他という四つに国力レベルを分類する。日本は、中国、インドネシアなどと一緒の地域大国だが、「潜在的に」という但し書き付きである。他方、但し書きなしで、ヴェトナム、韓国などと一緒にナンバー・ツーの国に分けられている。基準は何なのだろう?b)日米同盟は確かに大国追随だが、日英同盟は露の南進阻止という両国利害一致の結果だ。三国同盟は名目上のものにすぎなかった。超大国ですら他国と連携する。果たしてバンドワゴニングは適切な用語だろうか?c)やがて「分裂する中国」なる中華文明の特質が浮上するだろう。しかも隣国からナショナリズムと覇権主義志向は消えない。とすると誰が見ても、未成熟で粗野な覇権よりも米国の成熟した覇権の方が好ましい。中西輝政氏は巻末の「解題」で指摘する。自信をもって、文明のアイデンティティと国益が両立する道を選びとろう、と。
(1000文字)
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2011年8月21日日曜日