さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
〜 PEK’s à la carte & BookShelf 〜
さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
〜 PEK’s à la carte & BookShelf 〜
ⅴ)「日本人ルーツの謎を解く」
ⅴ)日本人ルーツの謎を解く
長浜浩明著 展転社 二〇一〇年五月
日本人は東アジアの最後進民族。紀元前三〇〇年頃に稲を持ったボートピープルがやって来るまで、日本列島は「縄文時代」という闇の中にあった。大陸や半島の先進性に比べて、日本は狩猟採集生活を何と八千年も続けていた。文明も日本人も起源はみな朝鮮半島。これが私たちの「常識」であった。
分子人類学とはDNA解析により人類の起源を明らかにできる学問だ。今ではミトコンドリアDNAから女性の、Y染色体DNAから男性のルーツが解明できる。稲のDNAやプラントオパールの解析も進んだ。いつ頃どこからどのように稲作が伝わったかは、もう決着済みだ。言語学の研究から日本語の形成過程と成立年代が推定できるようになった。質量分析機が導入され日本全土で遺跡が数多く発見されたことにより、考古学も格段に進んだ。これら研究の成果をマクロな視点で統合し判断することで、日本人の起源と有史以前の歴史が解き明かされる。
日本では、すでに一万六千年前に世界最古の土器を造り、九千年前に世界最古の漆器を造り、四千五百年前には高床式建物を精巧に組み上げ、巧みな航海術により伊豆諸島の黒曜石を八千年前に本州に運んでいた。日本の米作りは、何と六千年前縄文前期から途切れることなく続いていた。しかも三千年前には灌漑設備も整った水田稲作がなされていた。分子人類学的には、日本人の祖先は一万年以上にわたる列島の主人公、縄文人だった。弥生時代の始まり以降に加わったのは約一割に過ぎない。逆に韓国人の一部には縄文人DNAが存在する。日本語は今から約五千年前に成立していた。北方(樺太、沿海州、シベリア東端)ツングース系の人々が南下して北海道、東北、関東地方を中心に住みついた。南方(東南アジアなど)オーストロネシアン系の人々が北上して沖縄、九州から近畿地方にかけて住みついた。その二つが交流することから、言語的混合が起こって日本語が誕生した。弥生時代以降に渡来した人々が言語的に及ぼした影響はほとんどなかった。これらが「歴史的真実」だ。
日本は後進国だった。文明も人もみな朝鮮半島から来た。学校でもマスコミ報道でも歴史家や小説家や研究者も、司馬遼太郎などもみな口をそろえて言う。しかしそれは大ウソだったのだ。自国の歴史を過小評価して見下す発想は、有史以前の歴史についても私たちの心に刷り込まれていた。教科書などが書き変えられて常識が覆されるのはいつのことになるのか。
(1000文字)
脚注
1)有史以前の歴史:文字で書かれた史料が存在する以前の歴史。
2)ツングース系:アルタイ語系ツングース語と日本語は「私は・本を・持っている」という語順や助詞、助動詞などの文法的な共通点がある。その反面、日本語で大切な接頭辞や豊富な語彙はツングース語にない特徴である。
3)オーストロネシアン系:マダガスカル、マラヤ、インドネシア、フィリピン、台湾、南太平洋、ニュージーランドの諸言語圏。国立民族博物館、崎山理氏の研究により、上代日本語語彙の約八割がオーストロネシア語由来で、接頭辞もオーストロネシア語と共通点が多いことが判明した。
4)DNAの異なる両者が邂逅した地が本州中央部。両方の民族が混じり合う接点として、関東や中部地方からATL(成人T細胞性白血病)のキャリアが減少し、言語も混じり合い醸成されて行ったという。
5)本書は決して読みやすい内容が盛り込まれているわけではない。著者の書きっぷりは必ずしも読み手に優しいものとは言えない。その点には注意して読み始めるのが良いだろう。
●
2011年7月2日土曜日