さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
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ⅶ)「大日本帝国の興亡」暁のZ作戦
ⅶ)大日本帝国の興亡(1)暁のZ作戦
ジョン・トーランド著、毎日新聞社訳、早川書房 一九八四年七月
日米戦争に関するノンフィクション。アジア共産化を危惧していた二大国が、なぜ衝突したのか。日本人妻を持つ米国知識人が一九七〇年に書いたピューリッツァー賞受賞作。その日本語版である。
大陸への侵略と残虐行為を日本側の原因として挙げる一方、著者は米国側の要因にも言及する。曰く、米国は日本人移民を締め出し、日本人が怒って当然の人種偏見により憎悪と不信の種子をまいた。ハル四原則にある道義的主張の偽善性を認めるべきだった。英国は植民地でそれほど道徳的ではなかったし、米国自身も中央アメリカにおいて『砲艦外交』を行なうなど、自らの要求に反する行為を平気でしていた。結局、米国が唱える正義や道義は自己の利益のためにすぎなかった。米国のように天然資源と広い国土に恵まれ、外国に攻撃される恐れもない国が、どうして日本のように小さく、ほとんど資源もなく、常にソ連のような仮借ない隣国の脅威にさらされている島国の立場を理解することができただろうか。
一九四一年夏まで、米国は解決困難な中国問題に関与したいと本心では思っていなかった。主要な敵はヒトラーだった。しかし米国外交官たちは極東に戦争をもたらす政策を選び、逆に中国を見捨てることになった。日本をナチスドイツと同類視してしまい、祖国を完全に性格の異なる二つの戦争に巻き込んだ。一つは欧州でのファシズムに対する戦い、一つは白人支配からの自由を求める東洋人の願望につながるもの。日米双方に英雄も悪漢もいなかった。ただ『時勢』だけが責められるべきものだった。もし共産主義とファシズムという二大イデオロギーがなかったら、日米が戦うことは永久になかっただろう。つきつめると、悲劇の源は英米に無視されることを恐れた日本がヒトラーと結んだところにある。こんな同盟は名目以上の何ものでもなかった。さらに相互の誤解、言葉の違い、翻訳の誤りにより、相互不信がさらに増幅され、必要のない戦争が始まった。ハルが日本の乙提案に融和的な回答を出していたら、来るべき数十年に禍根を残す重大な誤りを犯すようなこともなかったろう、と。
これは米国の公式見解ではない。お決まりの形で日本を非難してはいる。しかし、我々が信じる「日本だけが悪玉だった」という視点はない。遥かに公平で客観的だ。米国元大統領フーバーも言う。「そもそもアメリカは日本を挑発しない限り、決して真珠湾を攻撃されることはなかっただろう」と。
(1000文字)
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2011年7月24日日曜日