さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
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千字でたどる日本の教会史 10)高山ジュスト右近の祈り
千字でたどる日本の教会史
10)高山ジュスト右近の祈り
右近が信仰にめざめた契機は次の通りである。彼と父友照は、摂津守護の一人高槻城主和田惟政(これまさ)の配下だった。キリスト教シンパの惟政だったが、別の守護池田氏の部下荒木村重に待伏せされて討死する。村重は池田家を乗っ取る。二年後の一五七三年、高槻新城主十七歳の和田惟長(これなが)は、反高山派家臣と諮り高山父子を呼び出して殺すことにした。二派の武将たちは壮絶な斬り合いを演じる。右近は惟長に致命傷を負わせたが、自身も瀕死の大怪我をした。右近父子は高槻城から反高山勢力を一掃、織田信長に仕える村重の配下となる。幼馴染みの惟長を死なせ、自分は奇跡的に九死に一生を得た。右近その時二十一歳。家督を譲り受けた彼は、終生引きずるトラウマを抱えつつ信仰を実践し、領主の務めを果たすようになる。
一五七八年、今度は別の試練が右近を襲う。村重が信長に叛いたのだ。右近は信長への忠誠を破るのは不名誉で正しくないと反対。妹と一人息子を人質として村重に差し出す。逆に信長は宣教師オルガンティーノを利用し右近を揺さぶる。もし右近が高槻城を渡さなければ、全宣教師を城門前で十字架につけ、領国のキリシタンを皆殺しにし、教会を破壊する。反対に書状を右近に届け、キリシタン宗門を保護し摂津の半分を彼に与えると報償を約束した。友照は信長の本心を垣間みるような強引なやり方に憤慨し断固拒否。高槻を死守できなければ切腹すると右近を脅す。オルガンティーノが高槻城に最後の和平交渉に来た。右近は祈りに沈む。城内勢力は友照に有利。父子で高槻を守れば、宣教師と信徒は処刑される。神父や教会を救うために信長と和解すれば、領地欲しさに武士の名誉と家族の命を犠牲にしたと言われる。自分が信長に殺される可能性もある。オルガンティーノが十字架を抱き泣きながら祈っているとの知らせが届く。長い祈りが終わった。彼はすべてを捨てる決心をした。高槻城主の地位と家督を父に返し、武士であることをやめ、家族を棄て、教会の一奉仕人になると決めた。平安が右近の心をつつむ。全てを捨てると人は本当に自由になる。紙の衣装だけをまとい信長のもとに降った。
予想外の結末が待っていた。右近は四万石に加増され、教会も信長の絶大な保護を受け、妹と息子と父親を再び取り戻す。生ける神の前に立たされたとき、彼は最も大切なものを選びとった。それは、右近を愛し右近のために十字架上で命まで投げ出した救い主イエスに違いない。
(1000文字)
画像は「高山右近」神戸淳吉著、さえら書房、ならびに
http://buenoskozo.blog72.fc2.com/blog-entry-29.htmlより
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2011年12月25日日曜日