さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
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千字でたどる日本の教会史 8)日本人嫌いのフランシスコ・カブラル
千字でたどる日本の教会史
8)日本人嫌いのフランシスコ・カブラル
スペイン・ポルトガルが新大陸でとった方法は?未開で野蛮な現地人を暴力で支配し、幼稚な子供のように憐れんで導く。西洋化なる「同化策」だった。その「同化策」を代表する人物が現れる。フランシスコ・カブラルである。一五七〇年、善良なトーレスの後を継ぎ、イエズス会の日本宣教責任者となった。カブラルは日本人嫌いだった。「日本人ほど傲慢、貪欲、不安定で偽装的な国民を見たことはない」「横柄で感情的」と書いている。その偏見は実体験から生れた。同時に欧州人の持つ「アジア人蔑視」も関係する。彼は、a)「所詮お前たちは日本人なのだ」などと苛酷な言葉で侮辱し名誉を傷つけ、b)日本人伝道者を差別、c)ポルトガル人の習慣を強制、d)日本人の習慣を軽蔑、e)日本人司祭を禁止、f)教育をせず、g)日本語を学ぼうとしないという態度を貫いた。
日本人改宗者は堪えられなかった。特に誇り高い武士や元僧侶は。後年、イエズス会から多くの棄教者、背教者を出す。禅僧ファビアン・フーカン(不干斎)が一例だ。彼はすぐれたキリスト教布教書を著した有能な司祭志願者だったが、後に寝返り反キリスト教論『破提宇子(はでうす)』を執筆。人には謙遜を勧めるが伴天連自身は高慢。日本人を人と思っていないとぶちまける。若桑みどり氏は「この反キリスト教論はそれ以降の日本のキリシタン迫害に理論的な支柱を与えた」「日本キリスト教会を破滅させた一因はポルトガル人の…差別的な態度だった」と述べる。
氏はカブラルについて「日本がきらいでそのことばも覚えようとしない人間がどうして日本に来て日本の布教長をやっていたのか…唯一思いつく理由は、彼はキリスト教とヨーロッパをなによりもすぐれていると信じて、それを未開の土地に教えるという義務感(崇高な)でやってきた…人種的に劣っていると思っているところへ恩恵をほどこす…その精神的姿勢がすべての根底だった」と評している。
一五八二年、カブラルはヴァリニャーノにより解任されるが、欧州人の精神的姿勢と日本人の耶蘇嫌いはそれぞれ代々受け継がれる。互いを傲慢と非難する態度が日本の教会を破滅させたばかりか、日本人と欧米白人の軋轢として二十世紀にまで持ち越される。結果として日本は欧米に叩き潰され、欧米はアジアやアフリカの植民地を失う。今に至るまで何も解決されず、日本人がキリスト教を拒絶している現状にも繋がっている。恐るべし傲慢の罪。
(1000文字)
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2011年12月11日日曜日