さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
〜 PEK’s à la carte & BookShelf 〜
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xvi) コリアン世界の旅
xvi)コリアン世界の旅
野村 進著、講談社 一九九六年一月
クラスメイトも、会社の同僚も、芸能界やスポーツ界のスターも、私たちが見知った顔には日本人しかいない。日本製のカバンや靴は全て日本人が作り、スーパーやお店も全て日本人が経営している。私たちの多くは信じてきた。だがそれは「虚構」だった。半島から日本に渡って来て、いわゆる「在日」として六十万人余りが日本にとどまることを選択した。さまざまな理由から、多くが出自を隠し通名(日本名)で暮らした。また近年では帰化する人の数も増えた。冒頭の「虚構」は、日常が見えないコリア系日本在住者が、日本の隅々で生活していることをさしている。本書の取材を続ける中で、日本人の目を眩ませてきた壮大な虚構の「謎解き」を見せられている気分だったと、著者は語る。
メディアもタブー視して全く取り上げないか、「強制連行」「国籍条項」「指紋押捺」をことさら強調する「在日問題」として問題視するかのどちらかだった。筆者は、どちらも結局互いのためにならないと考えた。そこで選択したアプローチは、現在の世界に両者を置き、できるかぎり相対的・普遍的な視点から諸々の事象を考えることだった。歌手にしきのあきらの取材から出発。焼肉やパチンコ業界関係者の取材を敢行する。海外に飛び、LAに住む在米コリアン、サイゴンで働く元韓国兵、済州島関係者を取材する。再び日本に戻り、朝鮮学校や総連関係者、阪神淡路大震災と神戸市長田区の人々、Jリーグのコリアンたちなど、コリア系コミュニティーと人々の姿を取材して旅を終える。歌手新井英一が歌う大作「長河(チョンハー)への道」の話は圧巻だ。
作家の高史明氏は「日本が在日朝鮮人を抱え込んでいるというのは、非常に貴重なものを抱え込んでいる」と筆者に語る。在日コリアンの問題には様々な矛盾があってすぐには解決できないが、「百年、二百年と過ごせば、非常にいい熟し方をしていく」と続けたという。矛盾を抱えながら生きるものだという「内在肯定力」が、人も国も成長させるということだ。意図に反して、「一部マスコミと同じ。日本人による差別を批判している」と受けとる人もいるだろう。しかし、野村氏はコリア系日本在住者の可視化という作業をしながら、実は日本人とは何かを問うている。あらゆる矛盾を抱えながら生きるという大前提を問い直している。地域的にも歴史的にも大きなスケールで。「謎解きの旅」を一緒に如何ですか?と読者を誘っているのである。
(1000文字)
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2011年10月16日日曜日