さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策 

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 コフートの発達理論では、自己は三つの段階で発達してゆく。「仮想的自己」「中核自己」「融和的自己」である。今回は、その三つを順次概説する。


 自己は、母親と接触した瞬間に発達を始める。コフートはその段階の自己を仮想的自己と呼んだ。彼はそれを「実質上の自己」とも呼んだ。自己未満だが自己とほぼ同等のものであるという(脚注5)。原始的で単純な構造しか持っていない。


 仮想的自己は、母親、すなわち「鏡自己-対象」との交流により、生きてゆく上で大切なさまざまな能力を吸収する(図23)。


       

                図23 仮想的自己の概要


 仮想的自己を図式化すると図24のようになる。原始的で構造は単純。母親からさまざまな能力(i、j、kなど)を吸収してゆく。


       

               図24 図式化した仮想的自己


 母親から吸収した能力は集合して「誇大自己」が形成されてゆく。何でもできる「すごいボク」である(図25)。


       

                図25 誇大自己の形成


 母親は、まず「鏡自己-対象」としての役割を果たす。子どもの成長に必要な「重要な他者」である。しかも最も早く登場する。


 その他に、何でもできるすごいボクという「誇大自己」を受け入れてくれる。褒めてくれる。母親のになうそういった役割と肯定的な反応によって、誇大自己は、より現実的で成熟した向上心へと変化してゆく。コフートによると、「誇大自己」は「向上心」へと発達してゆくという。


 その向上心は、誇大自己がしっかりと成熟したものであり、「野心の極」が形成されてゆくのである。「野心」は「中核自己」の一つの極を形成し、こうして「仮想的自己」が「中核自己」に発達しはじめる(図26)。


        

                 図26 野心の極の形成


 図式化すると図27のようになる。母親が「鏡自己-対象」として、子どもの中に向上心を生み出すのを手伝う。何でもできるスゴいボクという「誇大自己」は成長し、「野心の極」を形成する(図27)。「仮想的自己」は「中核自己」に発達しはじめる。もう一つの極は「理想の極」である。


        

               図27 「野心の極」形成を図式化


 次に、子どもの成長に欠くことのできない「重要な他者」として、父親が登場する。母親も「鏡自己-対象」としてだけでなく、父親的な「重要な他者」にもなりうる。つまり、父親あるいは母親、またはその両方が「理想化自己-対象」となるのである。


 子どもは「理想化自己-対象」からさまざまな能力を吸収する。子どもの中にある理想的な親、スーパーマンのように「万能な親」のイメージを考えると良い。こうして子どもの中に「理想の極」が形成されてゆく。子どもが理想を持つ発端はここにある(図28)。


        

                 図28 理想の極が形成される


 図式化すると図29のようになる。父親または母親、あるいはその両方が「理想化自己-対象」として、子どもの自己に「理想の極」を形成する。


        

                図29 「理想の極」形成を図式化


 母親により「肥大自己(鏡自己)」が、父親または母親(またはその両方)により「理想化自己」が成長する。やがて、二つの極からなる「中核自己」に発達してゆく。二つの極とは「野心(向上心)の極」と「理想の極」である(図30)。


        

                  図30 中核自己の形成


 コフートの発達理論によると、子どもは「仮想的自己」から次の段階である「中核自己」の構造を作り上げてゆく。「野心」と「理想」の双極構造を有する。「双極自己」とも呼ばれる。自己が構造を獲得し始める最初の段階とされる(図31)。


        

              図31 自己が構造を獲得し中核自己となる


 子どもの自己は、野心と理想の他に、人間にとって必要なあらゆる対人技術を獲得してゆく。友人関係、同朋(兄弟)関係、同胞(兄弟)意識に近い「双子自己-対象」との関係から獲得する。


 親友、同朋(兄弟)も、子どもの自己の発達にとって欠かせない「重要な他者」なのである。親では代替できない。母親や父親は決して、兄弟や親友、恋人の代わりの役割を果たせない。無理にそういった役割を果たそうとすると、却って歪んだ人間関係となってしまう。


 野心と理想の二つの極の緊張によって活性化され、「双子自己-対象」から、才能、技術といった執行機能や行動能力と技術が獲得されてゆく(図32)。


        

                 図32 中核自己の発達


 図式化する(図33)。「野心」と「理想」という二つの極の緊張によって活性化される形で、「行動能力」や「行動技術」といった執行機能が獲得されてゆく。「双子自己-対象」に関係する発達は、社会の中で通用する「対人スキル」の獲得に重要である、と言われる。


        

              図33 執行機能(対人スキル)の獲得(1)


 友人、兄弟関係などの「双子自己-対象」から、執行機能、対人スキルとも言うべき行動能力と行動技術を獲得してゆく(図34)。


        

              図34 執行機能(対人スキル)の獲得(2)


 中核自己の構造は単純で不安定である。さまざまな「自己-対象」を取込み、構造が安定してゆく。これを「変容性内在化」と呼ぶ。中核自己は「融和的自己」「調和的自己」というより複雑な構造を持つようになる。複雑な構造のゆえに、より安定した状態となる(図35)。


        

                図35 融和的自己への成長(1)


 図式化する(図36~37)。さまざまな「自己-対象」から、行動能力や行動技術といった執行機能(A~X)を次々と獲得する。単純かつ不安定で不調和な中核自己は、複雑かつ安定で調和した融和的自己へ発達してゆく。


        

                図36 融和的自己への成長(2)


        

                図37 融和的自己への成長(3)


 重要な他者と接することにより、自己が安定するためのさまざまな機能を自分の中に吸収する。複製=コピーするとも言える。「変容性内在化」である。自己はますます複雑かつ安定で調和のとれた洗練されたものに変化してゆく(図38)。


        

                図38 融和的自己への成長(4)


 以上、コフートの発達理論を概説した。今回の記述は、前回「(Ⅱ)自己心理学の特徴」で概説した内容を土台にしている。


 まず何よりも重要なのが、自己の発達に大切な役割を果たす「重要な他者(=自己-対象)」の理解である。「鏡自己-対象」「理想化自己-対象」「双子自己-対象」が分かりにくかった場合は、是非前回の内容を読んでご理解いただき、今回の記述を充分理解するために役立てていただきたい。


 コフートの自己心理学では、子どもの自己は「仮想的自己」から「中核自己」を経て「融和的自己」へと発達してゆく。その発達において重要な役割を果たすのが、母親であり、父親(または父親的な理想を与える母親)であり、兄弟や親友、伴侶や恋人である。


 発達に伴って自己の構造がだんだん複雑になってゆくことは、図式化したので概要をイメージしやすかったのではないかと思う(図24~25、27、29~31、33~34、36~37)。コフートの自己心理学では、構造の複雑さは調和と安定を意味する。複雑な構造は、決して不安定と混乱を意味しない。


 次回は、何らかの理由で自己構造がうまく発達しなかった場合のことを考えてみる。概説するのは、自己愛性パーソナリティー障害と情緒不安定性パーソナリティー障害などについてである。つづく


脚注

5)実質上の自己:自己未満だが自己とほぼ同等のもの。よくわからない説明だが、ようするに未熟で原始的な自己のことと思って良い。