さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
What should we do now? Explore the history of Japan and the world.
〜 PEKのひとりごと PEK’s soliloquy 〜
さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策
What should we do now? Explore the history of Japan and the world.
〜 PEKのひとりごと PEK’s soliloquy 〜
xiii)ピースメーカー(4) 残酷な平和(Ⅳ)日本人の幸せ
日本人の幸いと誇り
主にヨーロッパで、人々は血を流して戦い、普遍的価値のある「自由、平等、基本的人権」を勝ち取った。そう言われている。それを、欧米人は誇っている。
日本人は、何もしなかった。欧米人ならずとも、我々自身、そのように考えている。しかし、本当にそうだろうか?日本の先人たちは、ただ殺し合いをしていただけなのか?
上述したように、特に織田信長は、世界のどの国でもまだ達成していない政教分離を、四〇〇年以上も前に達成した。後を継いだ豊臣秀吉は刀狩(脚注16)を行ない、徳川家康は寺院諸法度(脚注14)などを次々と制定し、農民や寺社が武器を持って殺し合いをしない社会を作った。
アメリカ合衆国では、武器を所持する一般の人々が沢山いる。学校などでの銃乱射事件が続こうとも、武器所有を制限する方向には行かない。自分のことは自分で守るというカウボーイ精神、自立精神が脈々と続いているためだという。
日本人で、一般の人が武器を所有することはまずない。許可を受けて所有することは出来るが、アメリカほど簡単ではない。アンダーグラウンドの人々に対して、銃刀法違反が問われることはある。アメリカのような銃乱射事件はおおむね発生しない。
そういった日米の相違を比べて、日本であれ、海外であれ、人々は次のように言う。「日本で刀狩が行なわれたのは、日本人の自立精神が欠如していたためである。日本人が自己主張をせず、暴動を起こさないのは、日本人に自立精神が欠如している証拠である」と。
そうだろうか?事実は全く違う。日本では、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の三人により、治安維持にあたる人とその恩恵にあずかる人の分業が完結した。政教分離だけでなく、各階層の人々の間で、武力を使う人々との分業が達成された。
江戸時代には、草の根民主主義の発達が見られた。がんじがらめの規制社会ではあっても、その制限の範囲内でなら、日本の各階層の人々には自治があり、各人の自由が味わえた(脚注3、17、18、19)。
暴力に訴える必要がなかった。暴力に訴えるよりも、もっと洗練され、成熟した解決方法を、日本人は身をもって体得したのである。
世界では、イスラエルとアラブの宗教対立、異なる宗教を持った国どうしの激しい対立などが続いている。一般の人々の間に、沢山の武器が行き渡っている国・地域は多い。兵士と民間人の境がハッキリしない。アフガニスタンでもイラクでも、治安維持がなかなか進まない。
アメリカ合衆国は、日本での占領政策を自画自賛している。アフガニスタンやイラクでも、日本と同じように行くはずだと考える。が、実際はそれほどうまくは行っていない。
何故か?なぜ日本でうまく機能したのか?アメリカの占領政策のためか?日本人が自立精神を持っていないためか?否、そのどちらでもない。
日本人は自国の歴史から、暴力によらない解決法の素晴らしさを、すでに身をもって学んでいた。その原点に、敗戦をきっかけにして立ち戻った。真の理由はそこにある。
日本では、安土桃山時代における壮絶な努力により、平和で安定した社会が実現した。平和と安定と洗練された解決方法を、血を流して勝ち取った。我々は、こうした「平和への努力」の恩恵にあずかっている。日本人は幸せである。信長らの功績は、胸を張って誇って良い。
歴史の逆説
本稿で見たように、織田信長は、世界のどこでも達成されていなかった宗教勢力の非武装化と政教分離を、四〇〇年も前に達成した。治安を維持する側とその恩恵にあずかる側の分離に道筋をつけた。楽市・楽座を広めて経済の大改革を行ない、庶民の生活を自由で豊かにした。
歴史には逆説がある。何と言うことだろう。残虐非道と称された織田信長こそ、真のピースメーカーかもしれないとは。
真のピースメーカーとはどのような人か?その疑問に対して、我々は、どのように答えて行ったら良いのだろう。(了)
(本論「残酷な平和」の冒頭に戻る)(全体のまとまり「ピースメーカー」の冒頭に戻る)(マイ・アーカイブズへ)
脚注
3)「絶対視されるワ(1)」、http://web.me.com/pekpekpek/さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策/Blog/エントリー/2009/5/24_ⅷ)_絶対視されるワ.html
14)http://ja.wikipedia.org/wiki/寺院諸法度
16)http://ja.wikipedia.org/wiki/刀狩
17)http://web.me.com/pekpekpek/さてどうしましょう:日本と世界の歴史散策/Blog/エントリー/2009/1/24_ⅳ)欧米人からみた日本.html
18)松原久子「驕れる白人と闘うための日本近代史」(田中敏訳)、2005年、文藝春秋。
19)別項目を立てて詳しく述べる予定。
(1939文字)
2009年7月15日水曜日